心療内科医笹田信五のカウンセリングルーム
定年−このまま終わるのは悲しい
「先生の講義の中の、なんとなく空しい。このまま人世が終わってしまうのかと思うととても悲しい、というところが私にはぴったりなんです」
Kさんは、60歳の女性です。この春まで学校の先生をされていました。一見、押しが強そうな方で、こんなに率直にお話になるとは思っていませんでしたので、少し意外な感じもしました。
「退職して、半年なんです。いろいろな会合に行っても、裏方に回って受付をしたり、掃除をしたりしています。
でも、有名な先生の講演の司会などを、若い方がしているのを見ると、心の中では何とも言えないほど空しいのです。
私、このままで終わりたくないのです。もう一度、華やかに生きたいのです。本当は、国連のボランティアに参加したいのです」
「それはいいですね」
「ただ、そのための能力がないのです。英会話の学校にも行き始めていますが、若い方と比べれば、記憶力も落ちています。やはり無理のようなので、寝たきりのお年寄りのボランティアにでも行こうかなとも思っています」
「しかし、少し変ですね。あなたは生き生きと生きたいのでしょう」
「ええ、そうです」
「生き生きと生きたいのか、社会の評価が欲しいのかどちらですか」
「........?」
「生き生きと生きたいということと、社会の評価を得ることとは、似ているようで、本当は全く違ったことなのです。若くて仕事もどんどんできるときには同じように思えるのですが、若さも社会の評価も失って初めて分かることもあるのですね」
「でも、辛いことですよ」
「そんなことはありませんよ。新しい能力を獲得されたのですよ。社会的評価を失った人の気持ちが分かるという能力です」
「しかし、それは悲しいことですね」
「それは、まだあなたが、社会の評価が自分の価値だという考えに縛られておられるからです。あなたがボランティアをしようとしている人々は、飢餓や戦争で社会的評価を失った人たちばかりではありませんか。
体の不自由なお年寄りも、社会の評価から見れぱ、寂しい人たちではありませんか。その方々の悲しさを理解できて初めて本当のボランティアでしょう」
「先生とお話していると、元気が出てきますね。すごく慰められます」
「大事なことは、生かされてる医学の5つの発見を学び、あなたが自分の山を登ることです。自分の山を登っていけば、生き生きとしてきます。新しい人生の1ページを開けますよ」
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